
暗記科目から情報科目に
昔は暗記科目
現在地理の学習に求められる能力は、共通一次やセンター試験の前期のころに求められていた地理の能力とは少し変わってきています。
昔(共通一次やセンター試験の前期のころ)、地理という教科に求められていた能力としては、やはり一番は暗記的能力でした。地名や地理用語をどれくらい暗記できているか、の勝負なところがありましたし、センター試験どころか、有名中学の入試問題においても、各統計(例:日本の各漁港の水揚げ高、世界の鉱物資源の生産高の順番や輸出高の順番、自動車の輸出高、など)を暗記していないと答えられない問題が数多く出ていました。当時の中学受験塾はそのような統計などを叩き込むような学習をさせていました。(今でもしているところがありますが・・・)
そのような知識(日本の〇〇の生産量)の丸暗記、などは、10年たって産業構造が変わればほとんど意味のない数字になります。受験では役にたつかもしれないですが、実社会では役に立たないのです。例えば、1980年代後半の日本は各種工業製品の生産高で世界一のものが山ほどありましたが、現在ではほとんど意味がない数字です(泣)・・・。
地理は情報科目
現代でも、地理の学習において、地名や特産物名、地理用語などを覚えないといけないこと自体は昔と変わりませんが、必要とされる能力は微妙に変わってきています。
それは必要とされる能力が、
暗記 から 情報分析力(情報処理能力)
に変わっているということです。
データや地理用語そのものを暗記するのではなく、雑多な情報(グラフ、統計表、地形図、過去の歴史とのつながり、登場人物同士の会話、風景や地形の写真、など)から、必要な情報だけを取り出し、そこから傾向や法則を見つけたり、必要な答えを特定する、という能力が要求されるようになったのです。
これは英語(特に共通テスト)においても同じ傾向があります。過去の共通一次テストやセンター試験の前期のものと比べれば、雑多で大量のテキストや図表から、必要な情報のみを捉えていく、という能力を問う問題が主流になっています。逆に文法問題がどんどん減っていき、ついに共通テストではゼロになりました。
現代で求められる能力
地理を学ぶ際に求められる能力がこのように変化した理由としては、現実の社会で求められる能力が変化したというのがあります。インターネット発達以前の世界では、知識は簡単に手に入るものではなく、(図書館に行ったり、図鑑や百科事典を手に入れたりしないといけない。)知識を持っていること自体に多くの価値がありました。しかし、何でもGoogleで検索できるようになり、AIにも聞くことができるようになると、情報それ自体を覚えておくこと自体にはあまり価値がなくなりました。その一方、あふれかえる情報から必要な情報だけを抜き取る能力や、そこから法則性や教訓を導き出す能力、全体として何が起こっているのか理解するという全体把握力、他者にわかりやすく説明する力、などがより必要になりました。
現代の地理教育が、知識重視から情報処理能力(分析能力)重視に変わっていったのは、概ね素晴らしいとは思います。意味のない暗記力を問うているのではなく、現実に必要な能力を問うているからです。
地理が理系有利になった理由
地理という教科が理系学生にとって以前に比べれば有利な教科になった理由は、上記の
暗記重視⇒情報分析力(情報処理能力)重視
の流れと関係あります。地理の問題で暗記を必要とする問題が減り、そのかわりに、統計やグラフを読み込んで法則性を見つける問題が増えたために、理系学生にとってはとっつきやすい教科になりました。注意力があれば、統計や注、登場人物の会話などがヒントになって答えを導き出すことができるようになったのです。「問題文と表を見たらほとんど答え書いてあるやん」と言っていた学生さんもいました。理系学生は暗記が嫌いな人が多いのですが、暗記していなくても答えにたどり着けるような問題が増えたのです。そのため、ここ数年社会の科目選択で理系の学生に地理を勧める予備校、塾が増えました。
ASDの学生にとっては一長一短
地理の問題が情報処理能力重視になったことで、発達障害(特にASD傾向)の人にとって有利になったのか不利になったのか、ということに関してですが、これは人によって違います。
ある理系学生は、現代の地理の学習で暗記要素が少なくなり、統計・図表分析能力を問われているのがわかり、上述の「問題文と表を見たらほとんど答え書いてあるやん」という発言になりました。その生徒さんはセンター試験(地理B)で80点以上取りました。かけた時間が少なかったことを考えるとタイパとしては最高だったと思います。
一方、ASDタイプでも1対1対応で暗記することにこだわりと自信を感じていたタイプは、今までの自尊心がくじかれた思いを感じたものと思われます。知識を暗記できていることがそれほど評価されなくなった上に、雑多の図表や記事、注などがちりばめられたものを見て、処理ができなくって混乱する人もいました。ASDの中でも複合処理が苦手な人、情報の取捨選択が苦手な人は、情報量の多さに苦労するものと思われます。
新課程でも傾向は変わらず
2025年度入試から地理でも新課程が導入され、新しい要素としては地理探求が入りましたが、基本的には傾向は変わっていません。ただし、「地理探求」では、
- グラフ、統計表、地形図、過去の歴史とのつながり、登場人物同士の会話、風景や地形の写真、などに加えて政策文書や企業レポートなども資料に加わり、より資料が複雑化している
- 従来の、「正しい答えを挙げる」という解答方式から、ケーススタディ型質問(課題から解決策を提示する)という形の問題がある
- 様々な領域の横断問題
などが出てきており、より知識重視から問題解決能力重視になっています。クイズ王的な能力を問うているのではなく、実社会で役に立つ能力を問うようになっているのですが、複合横断的な情報処理が苦手な人にとってはしんどくなるかもしれません。