
発達障害(神経発達症)の人の中には、アニメに対する親和性が非常の強い人が多いです。現実よりもアニメの世界に入り込んでしまうことが多く、しばしば、「2次元に行きたい!(アニメの世界に行きたい!という意味)」と言ったりすることがあります。
ここで、定型発達の人の立場から、「そんな世界に現実逃避するな。もっと現実と向き合え」と上から目線で説教しても問題は解決しません。たいていは、2次元に行きたくなる理由が彼らにあるからです。このあたりを考察していきましょう。
2次元にはまりやすいのには理由がある
それは発達障害(特にASD傾向)の人にとっては現実世界よりもアニメの世界のほうが「理解しやすい」世界だからです。
1,キャラクターの顔を判別しやすい(現実の人間の顔の表情を読むのが苦手)
- 発達凸凹の人の中でも特に自閉傾向が強い人の中には、現実の人の顔の表情が読めないという人がいらっしゃいます。相手の表情が怒っているのか、笑っているのかわからないで、どのように反応していいのかわからないということがあるようです。現実の世界で何度も失敗しているために、人とコミュニケーションをとることに対して臆病になってしまっているところがあります。顔の表情から相手の感情が読めないというのはかなり恐怖となる体験のようです。その点アニメのキャラクターは顔の表情が単純化したりデフォルメされて記号化されているためにキャラクターの感情が読みやすいようで、見ていて安心するようです。
- さらに顔の表情だけでなく現実の人間の顔を覚えられない、という人もいらっしゃいます。よく言われているのは、いろいろなパーツをまるでコンピューターのように個別認知はできるが、全体として捉える全体認知ができない、ということです。(逆に言えば要素還元的な認知は得意であり、理系研究者タイプに自閉症スペクトラム傾向の人が多いのも、要素還元な認知と親和性が強いと言えます。)
よくあるのは、女の人が髪型変えたり、化粧変えると別の人だと認知してしまう、ということです。「これは僕が知っている〇〇先生じゃないから会わない」と言ったりします。
アニメのキャラクターの顔のようにデフォルメされてかつ情報量が少ない顔だと認知しやすいようです。現実の顔は情報量が多すぎるようです。アニメのキャラクターは特徴的な色、髪型、などがあるので彼らにとっては識別しやすいのです。定型発達の人の中にはアニメのキャラなどはみんな同じに見える人もいると思うのですが、自閉傾向の発達障害の方にとっては各キャラごとに記号化された服装や容姿のおかげで、むしろ個別化して認識できるのです。
2,コミュニケーションが理解しやすい
- アニメの世界では全部自分の視野の中で出来事が起きている-ように見える-というのも彼らにとっては安心できるところです。自分の主観世界で物事が完結するというのは彼らにとっては非常に安心できることです。発達障害の人の中には、他人から見た世界(メタ認知)を類推できないため、現実社会が理解できなかったり、いろいろとトラブルを起こしたりすることがあります。でも神の目で全部理解できる視点でみることができるアニメやゲームといったコンテンツは彼らにとっては「完全な」世界で安心できるのです。
- 一方現実の世界は彼らにとっては複雑すぎて圧倒されてしまうことが多いようです。アニメの世界のように現実の世界に比べれば抽象化された世界のほうが、情報量が少なくて人間関係が理解できるようです。
- 発達障害の人の中には、現実の人は様々な面を持っていたり、時や場合のよって感情が変わるというのが理解できない人もいます。キャラが固定していつも同じコミュニケーションをしてくる存在のほうが安心できるようでえす。例えば常にツンデレなキャラとか、そんな人間は現実には本当はいないのですが、そういうキャラとして固定された存在をみると安心するようです。ですから、アニメ好きの人はそのキャラクラーを特徴づける
・決めゼリフ
・ミーム
に異常にこだわります。性格が固定化されたキャラを見ると安心するようです。
アニメオタクになりやすい
発達障害の人はアニメに対して強い親和性を示す人が多くて、私の今までの経験でも生徒さんの大体60%以上の人はアニメオタクだったと思います。私は脳科学者ではないのでなんともいえないのですが、発達障害の人の脳の構造にアニメの世界に入り込みやすい因子があるのでしょう。ぜひ脳科学的な研究成果を知りたいものです。
2次元の方が安心できる
どうも彼らにとっては現実の世界(3次元)よりアニメの世界(2次元)のほうが安心できるようす現実(3次元)というのは非常に情報量が多くて混乱する一方、2次元は彼らにとっては理解しやすい情報提供がなされているために、その世界が把握しやすいというのもあると思います。そのため、発達障害の人の中には2次元の世界に3次元の世界とは別のアイデンティティーを作って、そこで自分の居場所を見つけている人が数多くいます。
2次元にいきたいと思う時
多くの発達凸凹の人は、人生のかなり早い段階から何らかの挫折を経験しています(本人の顕在意識では記憶にないことが多い)。自分では普通にやっているはずのことが他人に笑われたり怒られたり、あるいはどうがんばっても”普通の人”と同じように物事ができなかったり、、。そういうとき2次元に自分のアイデンティティーがある人達はよく思うそうです。「ああ2次元に行きたいなぁ。」
自分で逃げ場だとわかっている人もいるが・・・
多くの人は自分でそれが逃げ場だとは自覚できているし、単にネタで、「2次元行きたいなぁ」とか言っているのですが、中には自分でも気づかずにその世界に入り込んで抜けられない人もいます。生活のすべてがアニメの世界中心に回っている感じで、当然親御さんが心配されるのですが、注意すればするほど意固地になってその世界からでてきません。
このあたりは難しいところで、彼らの世界を否定すると彼らの心理的な居場所がなくなるので、アニメでのアイデンティティーを否定することなく、現実との2つのアイデンティティーを並立してもっていくようにしていくのが肝要です。
番外
別次元から来た魂?
少々オカルトというか、いわゆるスピリチュアルの世界からの説明として、「発達障害の人はもともと地球とは違う場所から来た魂であり、地球での人生がうまくいかないのは地球にまだ慣れていないからだ。」という人がいらっしゃいます。そして「彼らはこの3次元の現実の世界は初めてな上、元いた世界は物理的な制約がないイメージだけで出来上がった世界から来ているため、アニメなどに親しみをもっているんだ。アニメのほうが彼らにとっては元いた世界に近いのでなかなか抜けられないだ。」ということらしいです。当事者の人でもそういう主張をしている方もいらっしゃいますし、ホームページやSNS等でそのようなことを大々的に主張している人もいらっしゃいます。
私はこの考えに対して、肯定も否定もいたしません。この考えで救われるのならそれでいいとは思います。ただし、あまりにスピリチュアルに引きずられると現実感覚を失ってしまうことがあるので、ほどほどにしてください、というのが私の意見です。