
「読解力」があれば、相手を理解する心が養われるのか
日本の国語教育の特徴
日本の国の文化は(他の国の文化と比べて)、「他者の気持ちを理解する」「相手の立場を尊重する」「みんなと気持ちを合わせる」ということに高い価値を置いている文化といえます。
その一環として、国語教育に関しても、物語文などを読んで、「登場人物の気持ちを理解しましょう」「あなたの感想を書きましょう」といったものが多いと思います。このような教育を通じて、他者の気持ちを理解する力が養われていきます。(ただ、意地の悪い味方をすれば、このような繰り返しを通じて、日本人は他者についての気持ちを読むパターンをテンプレ化して、マニュアル通りに処理する訓練をしているとも言えます。)
この方向性は他の国と比較すると顕著でしょう。
国によって必要な「国語力」は違う
アメリカなどは「他者を理解する」という練習よりも、むしろ「Public Speaking」という他者の前で自分の意見を堂々と話す練習に重きを置いています。アメリカでは自分の意見を主張できない人間は「信用できない人間」だからです。
フランスなどは日本で言うところの国語の時間は「哲学」の時間に当てられています。「哲学」と言っても、昔の偉い哲学者の事績を丸暗記することが目的ではなく、他者を理解するというよりは、自分の思考パターンを突き詰めていき自分のアイデンティティの確立をすることを目的としています。(アイデンティティの確立とは西洋人にとっては大きなテーマになります)
(定型発達の人にとっては)日本の国語教育は情操教育にはよいが・・
多くの人は、「ごんぎつね」や「スーホの白い馬」などを読んで涙したことがあると思います。美しい物語や心情表現が豊かな文章を読むことで、感受性や共感性が磨かれていく事自体は素晴らしいことです。これは日本の国語教育の良い点であると言えます。
(高機能)自閉症の人にとって役にたっているかといえば・・
ただ、こと(高機能)自閉症傾向の人に限って言えば、国語の学習に関して、テストでは高得点が取れる、あまつさえ大学入試共通テストや大学入試の国語の本試験でも高得点は取れるが、実際には共感性は育っていないし、他者への理解力にも乏しい、サリー・アン課題も理解できない、ということはよくあります。これはなぜでしょうか?
ペーパーテストで高得点が取れる理由
高機能自閉症傾向の人が国語のテストで高得点を取ることができてしまう理由としては、
- 典型的な問題をパターン認知で処理できてしまう
- ペーパーテストはテキスト情報のみを扱う
- 実際には感情理解できていなくても、論理的に情報を分類すれば答えが絞れるように問題作成されている⇒つまり情報処理として扱える
- 表情・声のトーン・ジェスチャーなどの多層的手がかりは存在しない
- テストは「感想文の妥当性」「要旨把握」「語彙の識別力」には強いが、「目の前の相手が急に怒り出す」「嘘をついているかどうか判別する」などのリアルワールド能力は反映しない
というのがあります。つまりペーパーテストは非常に情報量が実は少なく、限定された能力を問うているのにすぎないのです。
他者理解力を伸ばすためのアプローチ
自閉症傾向の人が他者理解力を伸ばすためのメソッドとしては、
- 明示的メンタライジング訓練⇒心の理論タスク(サリー・アン課題など)をステップ化し、正答だけでなく誤答の意味も解説する
- ソーシャルストーリーやコミックストリップ⇒絵やナレーションで場面を細かく分解し、登場人物の内面を明文化する
- SST(ソーシャルスキルトレーニング)を利用する
- ピアサポート・グループワーク⇒同年代の支援者と対話し、実際のやり取りを通じてフィードバック⇒フィードバックを受けながら、社会的ルールの暗黙知を言語化して学ぶ
などがあります。
しかし、完全にうまくいくメソッドというのは今のところなく(将来的にはできるかもしれませんが)、限定されたシチュエーションでは社会的に適切な振る舞いができる、あるいは振る舞っているふりをすることができる、といったことくらいしかできないのが実情です。当事者がすべての社会的文脈を理解できるようになるところまでいくには、金銭的・時間的に限界があるというのが現実です。自閉症傾向のある人が「心の理論」をマスターできるようになる方法は今のところありません。
私は上記の問題に対して、自閉症傾向の強い人は、自分が生きる環境に対する情報処理に関して、
閉じられたかつ単一の系で処理をするのが得意! 逆に言えば開放系かつ複数の質の情報を処理できない
とシンプルに捉えております。インプットとアウトプットが定まっていて、かつ一つの処理体系しか使わない処理を好む、ということです。
ですから、支援者は自閉症傾向の人に対して、当事者にとって単一閉鎖系の情報処理ができるようにする(広い意味の構造化)ように就労環境を整えていくことが今後求められるのではないか、と考えています。少なくとも、自閉症傾向の人が完全に「心の理論」を理解できるようになるよう期待するよりは現実的です。
自閉症就労支援専門のデザイナー・エンジニア?
将来的には、自閉症傾向の人に対して、適切な物理的環境を構築したり、仕事の業務フローを設計したりする、デザイナーあるいはエンジニアが求められるようになるかもしれません。自閉症関係専門のデザイナーやエンジニアが活躍して、労働生産性の向上に貢献できるかもしれないのです。