京都の西部地域で家庭教師を行っております。主に発達障害のお子さんの家庭教師をしております。


サリー・アン課題とは何か


発達障害(神経発達症)の特に自閉(ASD)傾向の強い人の中には、自分以外の第3者の視点から物事を理解するということが苦手な人がいます。自分の視点からしか物事が見えていないので、他人の立場や他人の気持ちがなかなか理解できなかったりします。心理学用語で言うところの「心の理論」が理解できていないせいです。

心の理論とは

「心の理論(Theory of Mind)」とは、他人が自分と異なる信念・感情・意図を持っていることを理解し、推測する能力を指す心理学用語です。例えば、他人が何を考えているか、何に困っているかを“自分とは違う視点”で想像する力です。これによって、共感や対人コミュニケーション、嘘や冗談の理解、駆け引きなどの社会的行動が可能になります。

一般的には幼児期(4〜5歳頃)に獲得されるとされ、発達障害(特にASD)では獲得が遅れるケースがあります。心の理論は社会性の基盤と見なされる重要な認知能力です。

発達障害の人が他者の立場をどれくらい推し量ることができるのかを検証するものとして、「(アン・サリー問題)」というものがあります。

典型的なサリー・アン課題

ある日、サリーとアンという二人の女の子が遊んでいました。サリーはお気に入りの赤いボールを持っていて、それを大切にしていました。遊びの途中、サリーはそのボールを自分のバスケットの中に入れ、「ここにしまっておけば安心だわ」と言いました。サリーはそのまま部屋を出て行き、しばらく外に出かけました。

サリーが部屋を離れている間に、アンはふと思いついて、いたずらをすることにしました。彼女は静かにサリーのバスケットから赤いボールを取り出すと、部屋の隅にある箱の中に移し替えました。そして、何事もなかったように元の場所に戻りました。

しばらくして、サリーが部屋に帰ってきました。彼女はもちろん、自分の赤いボールがバスケットの中に入っていると思っています。サリーはボールを探そうとしますが、ここで質問です──サリーは、最初にどこを探すでしょうか?

ここで、自閉度の高い人は「サリーから見た世界ではボールの場所は変わっている」ことが理解できないために、「サリーは部屋の隅の箱を探す」と答えてしまうことが多いそうです。

この場面では、サリーが部屋を出ている間にアンがボールを移動させた事実を知らないことを理解できるかどうかが問われます。サリーが持っている「誤った信念」に気づけるかどうか、つまり他者の視点を想像する力が試されるのです。

Youtubeで説明してくれている方もいらっしゃいます。

Information

発達障害、とくに自閉スペクトラム症(ASD)の人の中には、他者の視点が理解できないだけではなく、物理的に視点を変えたり、転換したりするのが苦手な人もいます。例えば、プラモデルで、ロボットの右手の取り付け方は理解できるのに、左手の取り付け方が理解できない人もいました。頭の中で図を回転するのができないので、「全く別の手続きだ」と脳が思ってしまうからです。

発達障害者がこの課題で直面する問題

発達障害、とくに自閉スペクトラム症(ASD)の人は、この課題においてサリーの誤信念を適切に推測することが難しいことがあります。その原因は、他者の視点や意図、感情の理解に困難を抱える「心の理論」の獲得の遅れによるものです。

ASDの人は、自分が知っている事実(=ボールが箱にある)を他者も知っていると誤って想定することがあり、視点の切り替えが難しい傾向があります。また、サリーが部屋にいなかった時間に何が起こったかという因果関係よりも、現在の物理的状況に注意が向きやすいことも影響します。

このような認知特性は、日常生活でも他者の意図や誤解への配慮が難しく、対人トラブルや孤立につながることがあります。そのため、こうした課題からASDにおける社会認知の特性を読み取り、支援方針を検討する手がかりとして重要です。

心の理論の獲得に向けた支援と解決策

心の理論の理解を支援するには、抽象的な理論の押し付けよりも、具体的な状況で他者の感情や意図に焦点を当てた体験が有効です。例えば、ロールプレイや人形劇などを通じて「他の人の立場になって考える」活動を積み重ねることで、視点取得の練習になります。

また、感情カードやイラストを使って、「この人は今どんな気持ちかな?」と想像する練習は、自分とは異なる感情を認識する力を育みます。動画や物語の一場面を止めて、「このキャラクターは何を考えていると思う?」と問いかける方法も有効です。

加えて、認知行動療法的アプローチで「状況→感情→行動」のつながりを言語化するトレーニングも役立ちます。他者の視点に気づけるよう、本人の認知特性にあわせて段階的な支援を行うことが重要です。

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